恋愛対象外に絆される日
「陽茉莉、記憶が戻ったみたいなんです。だから嬉しいんだと思います」

「えっ。陽茉莉ちゃん、そうなの?」

コクコクと頷く。ポロポロと大粒の涙をこぼす陽茉莉ちゃんの綺麗な瞳と視線が絡まった。ゆらりと視界が揺れる。だってもうそんな可能性はないかもって思ってたし、陽茉莉ちゃんとの昔の思い出は私の心に留めておこうって思ってた。

「結子さんいっぱい迷惑かけてごめんなさい」

「そんなこと……。うわああ、よかった。よかったね、陽茉莉ちゃん」

感極まって大泣きしている私と陽茉莉ちゃんの後ろで、遥人もずびっと鼻をすすりながら泣いていた。

一瞬困惑した会場だったけれど、各々事情を汲み取ったのか、もらい泣く声とあたたかい拍手で包まれた。きっと陽茉莉ちゃんと水瀬さんの人柄なのだろう。今日ここに招待されている皆さんはとても優しい眼差しで、あたたかい。

「これは結子さんに」

「わあっ」

陽茉莉ちゃんの持っていたレモンイエローの薔薇のブーケを受け取った。華やかでずっしりとしていて、それでいて優しい色合い。

「これから少しずつ恩返ししていきます」

「陽茉莉ちゃん……苦しかったね。でもよかった。本当に、よかったね」

よかった以外の言葉が見つからない。だって記憶喪失になっても負けないように頑張ってやってきたのを知っている。だからこそ余計に陽茉莉ちゃんとの思い出が走馬灯のようによみがえった。

「いっぱいいっぱい幸せになってね」

「はいっ!」

向日葵のように微笑んだ陽茉莉ちゃんの瞳から、また綺麗な涙の粒が溢れた。水瀬さんがぽんっと優しく背を撫でる。見つめ合った二人はとても美しくて、見ているだけでこちらも幸せな気分になった。



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