恋愛対象外に絆される日
「結子さん」

「は、えっ?」

突然名前で呼ばれてドキッとした。だって長峰はいつも「畑中さん」って呼ぶから。

「クリスマスケーキ、食べよっか」

長峰がしてやったり顔でニッと笑う。
そうして店員さんが運んできたのは苺のショートケーキ。とんでもなく見覚えのあるフォルム。

「これってレトワールの?」

「そ。食べたかったでしょ? 店に頼んで冷蔵庫に入れてもらってた」

「うそ。嬉しい」

「クリスマスデートっぽいでしょ?」

おっ。おおおっ!
確かに! 確かにクリスマスデートっぽい!
すごいじゃん、長峰。
うわー、なんかすっごく嬉しい。

「私、こんなの初めて……」

そう、初めてで。クリスマスデート自体も初めてだから、これがそうなのかわからないけど。ていうか自分でそういうシチュエーションにしろって言ったけどさ。まさかそんな風にしてくれてるなんて思わないじゃない。

やだ、胸がぎゅんって震える。

「ありがと……」

「ハンカチ持ってないんでマフラーで拭いてもらってもいいです?」

「泣いてないわよ、ばか」

バシンっと長峰の腕をぶっ叩いた。「いてっ」とか言いながら笑ってくれる。
そんな優しい気づかいがとても嬉しかった。

「あー、マフラー洗濯して返してくださいね」

んなことはわかってるわ。鼻水付けちゃったからね。でもさ――。

「そういう一言いらなくない? 減点」

先輩として厳しく指摘してやるんだからね。
ふん、と鼻息荒く長峰を見る。お互い顔を合わせるとどちらからともなく吹き出した。

クリスマスって楽しいな。
一緒に過ごしたのが長峰でよかった。

そう思えるくらい、気持ちが揺れ動いた夜だった。
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