恋愛対象外に絆される日
「おはようございまーす」

タイムカードを押して裏口から入ると、厨房から「はよっすー」と長峰の声が聞こえた。すでにボウル片手に作業している。

あいつ今日は早番だったのか。昨日遅くまで付き合わせちゃって悪かったなぁ。
まあでも、奢ってあげたし、いっか。

うんうん、と勝手に納得して私も仕事を始めた。
クリスマスが終わると少し客足が落ちる。今日はゆったりと仕事できるだろうか。

カラランと自動ドアが開き、一組のカップルが入ってきた。手を繋いで微笑ましい。

「いらっしゃいませ。お決まりになりましたらお声がけくださいね」

ニッコリと営業スマイル。
カップルはショーケースを覗き込みながらどれにするかキャイキャイ話している。

あー、なんか初々しくていいなぁ。可愛いなぁ。見てるだけで頬が緩んできちゃう。私もそんな時期があったかしら。キラキラしてていいなぁ。

昨日別れたばかりだというのにそれほど引きずっていない。ショックはショックだったし泣いちゃったりもしたけど、思ったよりダメージは大きくなかった。

それよりも、私はもうアラサーなのだ。
今から新しい恋? できる? どこで?
自分の未来が全く想像できなくて焦る。

「注文いいですか?」

「はい、どうぞ」

「苺のショートケーキと――」

彼女が楽しそうに注文するのを彼氏は柔らかい眼差しで見ている。

ああ、いいなぁ。
二人で食べるのかなぁ。

微笑ましい幸せな光景に癒やされながらケーキを箱に詰めた。

私が彼氏と別れようがそんなことはどうでもいいのだ。レトワールに来るお客さんがケーキ片手に笑顔で帰って行く。そんな幸せのお手伝いができることが私の幸せだもの。
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