恋愛対象外に絆される日
畑中結子 01
テレビの天気予報士が『今年はホワイトクリスマスになりそうですね』とにこやかに告げる。

ちらちら降るくらいなら可愛いものだけど、交通に支障が出るような雪は勘弁してほしい。

――なんて。

そんな可愛げのないことを考えるから私は結婚できないのかもしれない、などと考える冬の日の朝。

「さむっ」

はあっと吐いた息が白い。
明日はクリスマスか、憂鬱だ。

「おはようございまーす」

私、畑中結子《はたなかゆうこ》の勤め先、洋菓子店レトワール。クリスマス戦線真っ只中。今日も朝から忙しそうだ。

パティシエとして働く後輩、長峰遥人《ながみねはると》が厨房から「はよっすー」と顔を出す。カウンターからはこれまた後輩の矢田陽茉莉《やたひまり》ちゃんが「おはようございます、結子さん」と可愛らしい笑顔で挨拶をしてくれた。

みんな今日も元気そうだな。
よしよし。

元気じゃないのは私だけ。そんな風に卑屈に思ってしまうくらい、心は重くどんよりしていた。

「なんか結子さん、元気なくないです?」

陽茉莉ちゃんが心配して声をかけてくれる。すごいなこの子は。人をよく見てる。ていうか、それほど顔に出てたってことなのかもしれない。接客業なのに情けない。

「クリスマスだから忙しいなって、思ってただけよ」

もっともらしい理由をつけてみる。私たち洋菓子店にとって、クリスマスは書き入れ時。今日のイブ、明日のクリスマスはスタッフ総動員だ。だから毎年、クリスマスは仕事。それを嫌だとか思ったことはないけれど、今年はちょっと違う。

「畑中さんは明日早番っしょ?」

「わぁ、じゃあクリスマスデートするんですか?」

私に彼氏がいることは公言しているから、そうやって言ってくれるのだと思う。

「そうなの。ディナーよ、ディナー」

「わっ、素敵。楽しみですね」

「ねー」

なんて笑ってみせたけど、内心ズキズキと痛む。まだ彼から何も言われていないのに、想像しては落ち込むのだ。

いかんいかん。
仕事に私情を持ち込むな。
明日はクリスマス。笑顔で接客よ。

「はぁ」

無意識にため息が出ていたみたいだ。

「なんのため息です?」

冷蔵庫にケーキを運んできた長峰が訝しげな顔をした。
やべっ、また落ち込んでたみたいだ。

「何でもない何でもない。ほら、ケーキありがとー。あとはこっちでやっとくわー」

トレーを奪い取ると、しっしっと追い払った。
変なとこ察しがいいな、あいつは。
いや、私がわかりやすかっただけか。
どっちでもいい。とりあえず気をつけよ。
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