恋愛対象外に絆される日
ケーキなど生物が売っているショーケースとは別に、日持ちのするお菓子が並べられているブースがある。クッキーやバームクーヘンが個包装で売られており、贈答用として化粧箱に詰めることもできる。

フラフラと物色。普段店員として働いているのとは違った目線で買い物できるのが楽しい。うちの両親はレトワールのバームクーヘンとチョコブラウニーが大好きなので、それを化粧箱に詰めてもらった。

「美味しいですよね、バームクーヘン。ご実家に?」

「そうなの。うちの両親が大好きでさ。毎年一緒だけどこれを待ってるから他のものに冒険できないの」

「ふふっ、わかります。他のも美味しいんですけどね」

「だよねー」

ちゃっかり社員割引で購入し、おまけにクッキーを三枚ももらった。後で食べよう。

「ねえ、今日って長峰出勤してる?」

「いますよ。呼びましょうか?」

「うん、忙しくなければ」

陽茉莉ちゃんはパタパタと厨房へ入っていった。

年末のレトワールはお正月仕様。私と同じように帰省の手土産でお菓子を買っていく人も多い。年末なのにレトワールが賑わっているのが嬉しい。

しばらくすると長峰が厨房から顔を覗かせた。

「お疲れ様です。どうしました?」

「仕事中ごめん。マフラー返したくてさ」

「ああ、数日寒かったです」

「ごめんて……」

長峰が意地悪そうに笑うので、私はバツが悪くなる。しかも洗濯して型崩れさせてるからね、余計にね。

「俺、あと少しで上がりなんですよ。そこで待っててもらってもいいです?」

長峰が指差す先はイートインコーナー。レトワールでは買ったケーキをその場で食べられるちょっとした席が設けられている。しかもフリードリンク付き。めっちゃお得。

私はさっきおまけしてもらったクッキーとフリードリンクのコーヒーで長峰を待った。

窓からはぽかぽかとした日差しが差し込んでいる。外は寒いけれど部屋の中にいれば暖かい。
そんな穏やかな午後。
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