恋愛対象外に絆される日
しばらくすると仕事を終えた長峰が対面にどっかり腰を下ろした。

「はー、疲れた」

「年末までお疲れ様だわ」

「ほんとっすよ。クリスマス終わったら年始まで休みでいいんじゃないかと思ってる」

「あはは、理想的ね」

年間休日はそれなりにあるけど、シフト制だから一般的なカレンダーとは違う働き方の私たち。だから世間が連休のときに仕事をしているとなんだか損をしている気持ちになる。

「でさ、マフラーなんだけど。洗濯したら型崩れしちゃったの。ごめんなさい。弁償して返すわ」

カバンからマフラーを出し、長峰の前に差し出した。長峰はそれを手に取り広げる。

「あー……これは就職祝いにばーちゃんからもらった大切なやつ……」

「うそっ、どうしよう。同じの買うから許して」

やだ、本当に大事な物だったなんて。さーっと顔が青ざめた。同じもの買ったって、想いが違うからそれは別のものになってしまう。だけど他に謝るすべがなくて、同じものを買うしか思い浮かばない。

わたわた焦っている私を見て、長峰はふっと吹き出した。

「あははっ」

「なっ、なに?」

「冗談ですよ、冗談」

「えっ? 冗談……?」

長峰はマフラーを広げると器用に首に巻いた。藍色とグレーがおしゃれに流線を描く。長峰によく似合っている。

「型崩れなんて、巻いたらわかんないでしょ」

「そうかもしれないけど、でも……」

「もとからそうだったかもしれないじゃないですか。俺、洗濯してそんなこと気にしたことなかったです」

「それでもやっぱり申し訳ないわ」

何と言っても貸してもらった恩があるのだから。
あの日、傷心だったはずなのに、このマフラーのおかげでずいぶんと心癒された。優しさの極み。



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