恋愛対象外に絆される日
「昼、もう食べました?」

「ううん、食べてない」

「じゃあ、昼おごってください。それでチャラ」

長峰は立ち上がる。それを視線だけで追った。立ち上がらない私を長峰が不思議そうに見下ろす。

「それじゃダメです?」

「ダメじゃ、ないけど……」

そんなのでいいの?
だってマフラー、大切なものでしょう?

そう思うのに、型崩れしたマフラーは長峰の首にぴったりフィットしている。型崩れなんてないかのように。

「じゃ、行きますか」

長峰は私が飲んでいたコーヒーの空のカップとクッキーの個包装ビニールをゴミ箱に捨てた。テーブルの上にはもう何もない。私がここに居座る理由はなくなってしまった。

外に出ると冬らしくやっぱり寒い。日差しは暖かいけれど、北風が肌をピリピリさせる。

「さむっ」

「前から思ってたけど、畑中さんって薄着ですよね?」

「そう?」

「マフラーも手袋もしてないし」

「あー、そういえば確かに」

「そういえばって」

長峰はくくっと笑いながら「ん」と手袋を差し出してきた。

「なに?」

「寒そうだから」

「ありがとう。でも、いいの?」

「俺はこれ、あるから」

長峰のポケットからカイロが出てきた。寒さ対策万全か。すごいな、長峰。

「俺、寒がりなんですよね」

「女子か」

「それ、学生のときよく言われた」

懐かしむように長峰は笑った。
寒がりなくせにマフラーも手袋も躊躇なく私に貸すって、見た目に反して長峰は優しい。だって長峰はどこか冷めた節があって、他人になんて興味ない、我関せずな人なのかなって思っていたもの。
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