恋愛対象外に絆される日
貴文《ヤツ》が通り過ぎるのを長峰の背に隠れながら見送る。

「……なに?」

訝しがる声が頭の上から降ってきた。

「あー、うーん、ごめん。風よけ」

「俺寒がりなの知ってて?」

「うん、ごめん」

ははっと笑ってみせたけど、長峰は「さっきの人?」と顎で指した。
ギクギクギックン!
いやー、さすがに挙動不審になってたかー。バレちゃしょうがないよなー。

「そ、元彼」

若い女の子と楽しそうに手なんて繋いじゃってさ。私といるときあんな弾けたような笑顔見たことないわ。ていうかやっぱり若い女子と関係あったんじゃん。予想が確信に変わったわ、ちくしょー。

「畑中さんってああいうのがタイプ?」

「はあ? もうタイプでも何でもないわよ。長峰の方がかっこいいわ」

「あー、俺もそう思います」

長峰がドヤるのでぷはっと吹き出した。どこからくるのその自信は。

それにしても彼女、めちゃくちゃ可愛かったな。目がくりくりしててまつ毛もパチっとして、パパ活に見えないかしら? 貴文《あいつ》、もういい歳よ?

「男はみんな若い子が好きなのよね」

同意を求めたのだけど。

「そうですか? 俺はさっきの人より結子さんの方が綺麗だと思うけど」

「――!」

長峰が真面目な顔をしてそう言い放ったので、私はかたまった。ドッキンと心臓が大きな音を立てて。

こいつ、どさくさに紛れてまた名前呼び!
なにもう、調子狂う!

たぶん、顔は赤くなってたと思う。
なんなの、なんなのー!

私の動揺とは裏腹に、長峰は涼しい顔をしている。

「あ、名前呼ばれた。行きますよ」

背を押されて入店。
顔が熱い。店内はほどよい暖房の効き。
くそう、冷しうどんにしようかしら。
< 25 / 106 >

この作品をシェア

pagetop