恋愛対象外に絆される日
まったく、何を言い出すのよ長峰は。
動揺したのを悟られないように小さく深呼吸する。

ちらりと彼《長峰》を見れば、涼しい顔して熱々の鍋焼きうどんをすすっていた。さすが寒がり。熱いの平気なのね。いや、違う違う、そういうことじゃなくて。

「あのさぁ、なんで私のこと名前で呼ぶ?」

話題を変えよう、話題を。
そう思ったのに。

「あー、だって、名前で呼ぶと顔真っ赤になるので。可愛いなーと思って。でしょ、結子さん」

「――!」

こいつ! こいつー!
長峰のくせに! 長峰のくせに!
落ち着いて、私。
ふー、ふー、平常心、平常心。

「先輩をからかうんじゃないわよ」

クールに言ったつもりだった。

「だって本当のことだし。あ、かき揚げひとくちください。鶏肉と交換しません?」

さらっと流されて、しかもかき揚げを器用に箸で切って自分のどんぶりに持っていく。代わりに私のどんぶりにはホカホカの鶏肉と椎茸が投入された。

これって、シェアしたことになるのかしら?

食べ物をシェアすることに抵抗はない。同級生との忘年会だって三人でいろんな料理をシェアしたし。そういうのが楽しいし、いろいろ食べれて嬉しいし。

だけどね、貴文とはシェアしたことがなかったの。彼は大皿が苦手なタイプだったから。自分が頼んだものは自分のもの、少しもくれようとはしなかった。もちろん先に取り皿に取り分けるとか、そういうことはできたけど。それが貴文なんだから、別にいいやって思ってた。ずっと、今このときまでは。

どうしよう、なんかものすごく嬉しくなっちゃって困る。恋人とシェアするってこういうことなのかなって、錯覚した。

……長峰は恋人じゃないけど。
でも、異性だから。

「年越しデート設定ですよね?」

「そうだったわね」

そうだ、そうだ、これは年越しデート設定なんだったわ。だから、そういうことなのよね。
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