恋愛対象外に絆される日
「そういえばシュークリーム食べそこねてるのよね」

売れ残ったら買おうと思っているのに、たいてい完売しちゃう。レトワールにとっては良いことなんだけど、あの魅惑的な甘い香りに包まれながら仕事をしている私達スタッフには、食べられないなんて軽く拷問だ。

「ずっと食べたいって言ってましたもんね」

「掃除が終わったらコンビニで買うわ」

「レトワールのじゃないんですか」

「いいじゃない、コンビニのも美味しいわよ」

「じゃ、掃除頑張りますか」

ご褒美もできたことだし、よしと気合を入れる。
そうして長峰を部屋に招き入れたけれど、よく考えたら貴文以外で男性を部屋に入れるのは初めてだ。

ふと目に入る。小さなソファの上には今朝脱ぎ散らかしたパジャマが散乱――。

「うわぁぁぁっ」

慌てて引っ掴んでベッドの中へ隠す。

そうだった。まさか人を呼ぶだなんて思わなかったもの。朝ぐうたらしてた、そのままだったわ。キッチンのシンクには朝食時の洗い物がそのまま。

やばっ! 恥ずかしい!

「そんな恥ずかしがらなくても。掃除に来たんだから」

「それとこれとは別。掃除は掃除でも見てはいけないものもあるのよ」

本当に。私だってうら若き乙女なのよ。アラサーだけど。

「まあ、そうは言っても……」

長峰は可笑しそうにクスクス笑いながら視線をベランダへ向ける。その視線を追えば、風に揺られる洗濯物。チラチラ見えるブラとショーツ。

「〜〜〜!!」

「不可抗力ってやつですよ」

相変わらず涼しい顔した長峰は興味なさそうに笑った。

「ちょっとはあんたも恥じらいなさいよっ」

「そう言われても」

私だけ恥ずかしがってるし、長峰こそ照れたっていいと思うのに。私なんかの下着には興味ないってことね、ちくしょう。

「ピンクもいいけど白も好みです」

「知らん!」

とりあえずパンチをくらわせておいた。
まったくもうっ、デリカシーがないんだから。
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