恋愛対象外に絆される日
「で、どこやるんですか?」

「キッチンが手つかずなの。ガスコンロと換気扇が一番の難所で重い腰が上がらなかったのよね」

「なるほど。じゃあさっさとやっちゃいましょう」

長峰はコートを脱いで腕まくりをすると、シンクに放置されている食器を洗い始めた。スポンジをくしゅくしゅ泡立てて手慣れた手つきでこなしていく。

部屋の換気をしようと窓を開けると冷たい空気が入ってくる。全開にしようかと思ったけれど、長峰は寒がりだったことを思い出して薄く開けた。

ついでに洗濯物も取り込んだ。長峰がこちらに背を向けているうちに下着をささっと隠す。まあ、今更だけども……。何がピンクもいいけど白も好み、だよ。そんなこと聞いてないわ、バカ長峰。

飄々とした彼の感情はよくわからない。ずっと一緒に仕事をしてきた同僚だし仲も良い方だとは思うけど、あのクリスマスの日以来、何かが変わった。

何か……はわからないけれど、少なくとも私が長峰を見る目は変わった。入社当初から生意気なやつだと思っていたけど、気遣いができるようになっているんだもの。

「ねえ、長峰って入社して何年だっけ?」

「六年ですね」

そうか、人は六年もあれば変わるわよね。レトワールでも頼りにされてるもの。立派に成長したなぁなんて思っちゃうところが、私ももう歳かしら。

「結子さんは?」

「聞かないで。歳がバレる」

「もう知ってるし」

「知られてても隠したいものなんですー」

「そういうもんですかね?」

口だけ動いている私とは正反対に、長峰はせっせと掃除を進める。換気扇も難なく外して洗剤をプシュプシュかけ始めた。

やっぱり男手があるとないとでは違うな。
なんとなく、長峰の姿に貴文を重ね合わせてしまう。貴文も換気扇の掃除をしてくれてた。私がやってってお願いしたから。面倒くさいとか言いながらもやってくれるから私は甘えてたけど、本当は嫌だったのかしら。

……なんて今さら思ってもね。
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