恋愛対象外に絆される日
長峰のおかげで敬遠していたエアコンのフィルターまで掃除が終わった。

彼は掃除が得意なのか、私よりも率先して動いていた。むしろ私の方が早く終わりたくて仕方がなかったくらい。かつてないほど部屋が綺麗になった。

薄暗くなってきた部屋に電気をつけてカーテンを引く。エアコンのフィルターを掃除したからか、暖房の効きがすこぶる良好。

「もう夕方かぁ。シュークリーム、今さらかしら」

「いいんじゃないです? 大晦日だし、何でもありでしょ」

「買いに行く?」

当然のように聞いてしまったけれど、私はいつまで長峰をここに留めておくんだろう。案の定、長峰は「いいですけど……」と言葉に詰まった。

そうだよね、帰りたいよね。お昼からずっと付き合ってもらっちゃってるもの。これ以上は申し訳ないわ。あ、でもお礼にシュークリームは買ってあげようかしら。

なんて考えていたのに――。

「年越しデート設定続いてます?」

「はっ?」

「年越しデート、次は何するんでしたっけ?」

「……紅白見ながら年越し?」

「今日は泊まりかぁ〜」

「はっ? ちょっ、えっ? 何言って……」

何言ってんだ、コイツは! マジで!
いや、もしかしておちょくられてるの?
え、なになに? なにー?

動揺が顔に出ていたのか、長峰は可笑しそうに笑った。笑い事ではないのだと思うのだけど。なぜだか心臓がドキドキとうるさい。

「うそうそ、帰りますよ」

長峰はコートを羽織る。マフラーをくるりと綺麗に巻いて、いつもの長峰になった。

それは見慣れている姿のはずなのに、どういうわけか急に距離感ができた気がして胸が苦しくなる。

「帰っちゃうの?」

思わず口走った。けれどはっとなる。
私ったら何を言い出すのか。

帰るに決まっている。私と長峰はただの同僚で、今日はマフラーを返すためにレトワールに寄っただけだし、そこから一緒にお昼を食べたり掃除をしたりしたけど、それはお互いに暇だったから。

ただ、それだけじゃないか。
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