恋愛対象外に絆される日
矢田さんと畑中さんは仲がいい。
いつも二人で笑っている。

純粋無垢で悪意のない微笑みを浮かべるのが矢田さん。天使とか女神とか、そういう枕詞が似合うタイプ。畑中さんはどこかの受付嬢のような美人で凛とした笑顔が特徴的だ。

「長峰ってツンツンしてる」

「確かにそうかもですけど、パティシエの腕がいいんですよ~」

「そうなんだ。早く一人前になれるといいわね」

「はあ、そうっすね」

年齢が近いからか、やたらと二人に構われた。それが嫌だったかといえばそうでもなく、俺のような面白くない人間にも嫌な顔せず相手をしてくれることにありがたく思った。だからなのか、二人に感化されて俺の口数も増えていったように思う。

畑中さんにはよく叱られた。ダメなものはダメだとはっきり言ってくれる先輩。道をそれそうになるとすぐに正される。だけどフォローも上手いし俺の作ったケーキも褒めてくれる。

矢田さんはいつも柔らかい雰囲気で笑っている。この人がいる空間は優しい空気が流れているなと感じられるくらいに心地いい。

「長峰くーん」

名前を呼ばれるだけで幸せな気分になるって、ものすごい人だと思った。
レトワールにいると俺も自然と笑顔になれる。そんな風に変わることができた自分を不思議に感じた。専門学校の同級生が今の俺を見たらどう思うだろうか。

「ねえ、長峰って陽茉莉ちゃんのこと好きよね」

畑中さんがニヨニヨしながら言う。

「好きっちゃ好きですけど、矢田さんは近くで見ていたいタイプですね」

「その気持ち、わかる。可愛いわよね」

そうやって微笑む畑中さんも相当綺麗だと思ったけれど、まあそこは黙っておいた。

レトワールはいつも俺に癒しをくれる。ここにいると素直になれる気がする。俺はロボットじゃなく、ちゃんと人間になれているよな?
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