恋愛対象外に絆される日
02
翌年の十二月のことだった。明日はクリスマス。相変わらずレトワールは戦場で皆が忙しく働いている。

出来上がったケーキを冷蔵庫へ運ぶと畑中さんが受け取ってくれた。俺に背を向けた瞬間、ため息が聞こえる。

「なんのため息です?」

「何でもない何でもない。ほら、ケーキありがとー。あとはこっちでやっとくわー」

持ち場に戻れと顎で指示される。変な引っ掛かりを覚えながらも、忙しさに追われてひたすらにケーキを焼いた。

休憩は交代で入るが、たまたま俺と畑中さん、矢田さんの時間が被った。俺と矢田さんはラストまで、畑中さんは早番だから夕方には仕事を終える。

「去年ここで食べた仕事終わりのケーキが一番美味しかったわ」

「あっ、わかります。すっごく美味しかったですよね」

二人がキャピキャピと去年のクリスマスのことを話すので「そのケーキは俺が作りましたからね」とドヤっておいた。いつもはいはい、と軽く流されるのだが。

「今年は早番だから、食べられないなぁ」

畑中さんが残念そうに言う。

「結子さんは彼氏さんとディナーでしょ」

すかさず矢田さんがツッコんだ。畑中さんには長年付き合っている恋人がいて、今年は早番だからクリスマスディナーをするんだと聞いている。どう考えても仕事終わりのケーキより恋人とのディナーの方が嬉しいと思うのだが。

「ん、まあ、そうね」

沈んだ声。普段の畑中さんとはあきらかに違うテンション。そういえば仕事中もため息をついていたっけ。

「テンション低いっすね」

「楽しみじゃないんですか?」

「……あんまり」

「どうして?」

「……たぶん、別れ話されるから」

「「えっ!?」」

まさかの返事に思わず矢田さんと目を合わせた。
畑中さんが恋人と別れるという想像がつかなかったからだ。というのも、畑中さんは美人でしっかりしていて模範的な人生を歩んでいそうな気がしていたから。だからきっと次の報告は結婚なんだろう、なんて思っていた。
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