恋愛対象外に絆される日
畑中さんはぱっといつもの綺麗な笑みを浮かべた。

「ごめんごめん、クリスマスなのに。たぶん、フラレるんじゃないかなーって話。何が起こるかは明日になってみないとわかりませーん」

ふふっと、そんな重要なことでもなく何でもないのだというように言う。この人はいつもそうだ。プライベートなことをオープンにするくせに、そこにある自分の感情は隠す。

「何でそう思うんです?」

「え、何が?」

「畑中さん、その彼氏と付き合って長いって言ってませんでした?」

「ああ、うん、五年くらい?」

「だったら別れ話じゃなくてプロポーズとか」

「あっ! そうですよ、そういうサプライズとか!」

「ないわー」

困ったように眉が下がった。
そしてコテッと首を傾げて微笑む。

「まあいいのよ。私も別に彼に縋りたいわけじゃないし。もしほんとにフラレたら、やけ酒付き合ってよ」

「それくらいならいつでも」

まあ、俺にできることはそれくらいだろうし。他人の恋愛に口を出すほど野暮ではない。願わくば何事もなく上手くいくことだろうけど、やけ酒付き合うヤツがいるという保険があったほうが気が楽だろう。

こんな重たい話をしたことが嘘のように、クリスマス当日の畑中さんも綺麗な笑顔で接客をしていた。気になってはいたけれど、クリスマスの忙しさにかまけて畑中さんが帰る頃まで無心に働いた。

早番の社員たちがポツリポツリ帰るなか、畑中さんはスカートにショートブーツというずいぶんと可愛らしい服装だ。なんだかんだ言って、クリスマスディナーを楽しみにしていたんじゃないのか。矢田さんが可愛い可愛いとはしゃいでいる。

ふと、目が合った。

「長峰、お先に〜」

「あー、やけ酒になったら付き合うんで連絡ください。仕事終わり空いてます」

一瞬、畑中さんの顔が曇った気がした。それは見間違いかと思うほど一瞬で――。

「そのときはよろしく」

ニコッと綺麗な笑みを称えて帰っていった。

……後悔。
そうじゃなくて、もっとこうポジティブなことが言えたらよかったのに。俺のばかやろう。
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