恋愛対象外に絆される日
どっと疲れがきた。
俺もケーキは持ち帰りにしようとフィルムを巻いた。今年のクリスマスもたくさんケーキを焼いた。甘い香りが体に染みついている気がする。

着替えて携帯電話を確認すれば、畑中さんからメッセージが着ていた。

【やけ酒付き合え】

うわー、最悪だ。畑中さんの予想通り、彼氏と別れたってことか。確かにやけ酒付き合うとは言ったけど、まさか本当に別れるとは思わなかった。

急に矢田さんの言葉がよみがえる。

――慰めてあげてね

ああ、はいはい、慰めますとも。
俺くらいしか暇なやついないし。

すぐに電話をかけた。思ったよりも元気な声で『もしもーし』と耳に響く。

「どこっすか?」

『モミの木の下』

主語も述語もない。思わずタメ口で「は? それどこ?」と聞いてしまった。

『駅前だよ、駅前』

あー、と思い出す。駅前にはクリスマス前に大きなモミの木が設置されていた。それのことか。
すぐに行く旨を伝えて外に出た。

「うわ、雪かぁ」

いつの間に降っていたのだろう。チラチラと舞う雪が木々を白く染めている。積もりはしないだろうけど、今日がクリスマスということもあって少し幻想的に見えた。

しかし寒い。待ち合わせのモミの木は外だけど、畑中さんは寒くないだろうか。マフラーをぐるりと巻いた。

「あ、そうだ」

一旦店へ戻る。冷蔵庫からショートケーキを二つ、箱に詰める。ケーキなんかで慰めになるかわからないけど、食べたいって言ってたしな。少しは喜んでもらえるといいけど。

そんなことを考えながら駅前へ急いだ。
吐く息は白い。寒がりの俺には雪はつらい。
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