恋愛対象外に絆される日
駅前のモミの木のまわりにはたくさんの人で溢れていた。だけど畑中さんはすぐに見つかった。まっすぐ前を見て動かない。うっすらと雪が積もっていて、まるで置物のようになっている。その佇まいは美しくて、雪の精かと思うほどそこに溶け込んでいた。

ふと目が合う。俺を認識しているはずなのに、不思議な顔でじっと見つめられた。

「何じろじろ見てるんです?」

「いや、長峰だーと思って」

「はあ? てゆーか、いつからここにいるんですか」

近づいたら余計に雪が鮮明になった。頭の上も肩も白い。溶けた雪がピアスを揺らす。まるで雪だるまな姿に思わず手が伸びた。頭の上の雪を振り払う。

「雪、積もってるんですけど」

「えー、うそ?」

「鼻も赤いし耳も赤いし、どういうこと?」

「今日寒い」

「寒いのにずっとここにいたってこと?」

「そういえばずっとここにいたわ」

まったく、いつからここにいたんだろう。風邪でもひいたらどうするんだ。雪が積もるほどだから、体の芯まで冷えてそうだ。コートも薄いしマフラーも手袋もしていない。スカートとブーツの間、少し足が見えてるし。

ああ、もうっ。

俺は自分のマフラーを畑中さんの首に巻いた。冷えて赤くなっている首と耳と鼻をカバーできるように大きくふんわりと。

「なに?」

「見てるこっちが寒いから巻いててください」

「確かにさっきからずっと寒くて震えてた。あったかいわ~」

「俺は寒いですけどね」

「じゃあ返す」

「いいって。やけ酒するんでしょ。どこ行きます?」

「どこでもいいけど、今日席空いてるかなぁ?」

「居酒屋なら空いてるでしょ。二人だし」

寒くて震えてたって何だよ。待ち合わせるならどこか暖かいカフェにでも入ってればいいものを。

そんなことを考えつつも、もしかしたらその判断ができなくなってるくらいに彼氏と別れたことがショックなのかとも思った。

畑中さんは先輩だ。いつも俺達を引っ張ってくれて叱ってくれてまっすぐな道に誘導してくれる。ものすごく頼りになる人。

だけど今はとても儚くて頼りなくて、小さな存在に思えた。
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