恋愛対象外に絆される日
そうこうしているうちに焼酎お湯割りが運ばれてきて、小さく乾杯した。熱々のだし巻きたまごやどて煮、枝豆が次々とテーブルを埋めていく。

しばらくしてようやくコートとマフラーを取った畑中さん。コートの下からはふんわりシフォンスカートとショートブーツしか見えていなかったから、その私服姿に少しドキッとしてしまった。

袖がふわっとした七分丈のトップス。すっと覗く腕は白くて細い。左手首にはチャームの付いたブレスレットが繊細に揺れる。

……彼氏と別れるかもとか言いながら、完全にデート仕様なんじゃないのか? こう言っちゃなんだが、かなり可愛い。美人だとは思っていたけど、可愛さも持ち合わせているとは、先輩恐るべし。

「長峰は、よかったの?」

「何がです?」

「クリスマスなのに」

「仕事でしたけど?」

「いや、彼女とか……さ」

「いたら来ないわ」

いや、マジでな。彼女いてクリスマスに先輩のやけ酒付き合うとか、ないでしょ。暇だから来たんですが……。薄ら笑いを浮かべると「いないのかよ」とツッコまれた。

「いないっすねー」

「陽茉莉ちゃん?」

「あれはファンに近い。芸能人みたいな。今日は彼氏が迎えに来てた」

「ふーん」

興味なさそうな返事。
俺は矢田さんに軽く失恋しているというのに、まだ好きだと思われているらしい。矢田さんは矢田さんで、俺が畑中さんを好きだとか言うし。まったく、どうして勝手に俺の気持ちを決めるのか。

「畑中さんこそ、よかったんです?」

「何が?」

「クリスマスなのに俺と過ごしちゃって」

「あー……」

そこまで考えてなかったっぽい返事に苦笑した。まあ広い意味で言えば、毎年クリスマスはレトワールで一緒に過ごしているけど。(仕事で)

本当だったら彼氏とクリスマスを過ごしていた畑中さん。きっと楽しいことを想像していたはずなのに、今、隣りにいるのがつまらない俺で少し申し訳なく思った。

なのに――。

「ねえ、せっかくだからクリスマスデートっぽくしてよ」

コテッと首を傾げて上目遣いで見てくる。
アルコールが入っているからか少し顔が赤い。
色っぽい……というのだろうか、変にドキッとした。

「え、これ、そういうシチュエーション?」

「クリスマスデートしたことないからさぁ」

「何だそれ、無茶振りすぎる。先輩えぐい」

「ふふん、先輩だからね」

得意げに笑う畑中さんは何だか楽しそうで、今日彼氏と別れただなんて思えないほどにキラキラと瞳を輝かせた。

俺、プレッシャー半端ないんですけど。
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