恋愛対象外に絆される日
しばらく結子さんはうどんを見つめて、箸で椎茸を持ち上げた。じゅわっと滴る出汁と共に口に入れると「ん〜」と小さい声を上げながら頬を押さえる。

「椎茸はこういうとき、凶器よね」

「何で?」

「熱すぎて舌やけどしたわ。でも美味しいから許す」

さっきの「ん〜」は熱かったからか。ずいぶんと可愛らしい仕草で食べるんだな。そのわりに椎茸に上から目線で笑える。

片方の髪をすくって耳にかける仕草も、箸ですくったうどんをふうふうと冷ます仕草も、見ていて飽きない。とても綺麗だと思う。

じっと見すぎたのか「美味しいね」と微笑まれた。たぶん……結子さんと食べてるから、余計に美味しく感じられるんだと思う。

「長峰はもう大掃除した?」

「日頃から綺麗にしてるのであえて年末に掃除はしないですね」

「うそ、意外と綺麗好きなの?」

「綺麗好きというよりは、きちんとしたいタイプ」

掃除は嫌いじゃないし、物がきちんと並んでいるのも好きだし。あえて大掃除をしなくとも大丈夫なレベルには綺麗にしているつもりだ。

そんな俺に対して結子さんは「えー」と不満そうな声を上げた。きっとやってないんだな、結子さんは。なんかわかってきた。だから考えもなく「手伝いましょうか?」と口から漏れていた。

「何を?」

「大掃除。毎年彼氏に手伝ってもらってたんでしょう?」

「そうだけど、それはさすがに悪いわよ」

「俺、高いところに手届きますよ」

「うん、そこは魅力的。掃除するうえで」

「役に立つ男」

「なぜそこでドヤるの」

結子さんが笑う。俺のドヤ顔にいつもお腹を抱えて笑ってくれる。結子さんが笑うと俺もつられて笑ってしまう。おかしい、こんな何でもないことなのに、ただただ楽しいと思ってしまう。結子さんはすごい人だ。
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