恋愛対象外に絆される日
「エアコンのフィルター掃除しました?」

「やってない。実は自分で外したことなくて」

「じゃあこの機会にやりますか」

さっさと外して水洗いだ。
結子さんは掃除はあまり得意ではないらしい。面倒くさそうな顔をしている。なんとも正直な人だ。だけどサポートはしっかりするし、なんならそういうことの方が上手い。外したフィルターを受け取ってくれたり、洗っている間にタオルを用意してくれたり。スムーズに掃除が進んでいく。

なんかいいな、そういうの。
そう思っているうちにあっという間に夕方になった。

「もう夕方かぁ。シュークリーム、今さらかしら」

「いいんじゃないです? 大晦日だし、何でもありでしょ」

「買いに行く?」

判断を委ねられて一瞬戸惑った。俺はいつまで結子さんと一緒にいていい? このままじゃ調子に乗りそうなんだけど。

「年越しデート設定続いてます?」

「はっ?」

「年越しデート、次は何するんでしたっけ?」

「……紅白見ながら年越し?」

「今日は泊まりかぁ〜」

「はっ? ちょっ、えっ? 何言って……」

めっちゃ動揺。すごい慌てよう。そりゃそうだよな、やっぱり調子に乗りすぎたか。俺はただの後輩だからな。

「うそうそ、帰りますよ」

ソファに無造作に置いていたコートを羽織る。外はきっと寒いだろうからマフラーも必須。今年の大晦日は楽しかったな、なんてすでに本日終了のお知らせが頭の中を巡る。

なのに――。

「帰っちゃうの?」

寂しそうな声に再び戸惑う。

帰らなくていいのか? 泊まってもいいのか? それはそれでなんかこう、どうしたらいいかわからなくなるんだけど。

結子さんの気持ちが見えない。

寂しいのは彼氏と別れたからであって、毎年大晦日は彼氏と過ごしてたから、だからそんな気分になっているのだと思うけれど。一方で、本当に俺が帰るのが寂しいのかも、なんて勘違いしそうにもなる。

いやいやいや、んなわけないか。
一旦落ち着こう、俺。
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