恋愛対象外に絆される日
スッキリした部屋。ペアの食器類も全部ゴミ袋に入れてしまった。貴文と別れたことに未練なんてないけど、ずっと実感がわかないでいた。

だって電話でさらっと終わっただけだし。それこそ面と向かって話したりだとかケンカしたりすれば、それなりに実感はわくのだろうけど。

でも今日、貴文が女の子と手を繋いでいるのを見てストンと気持ちが落ち着いた。やっぱり私たちは別れたんだなぁって。

こうして貴文のものがなくなった部屋を見ると、一抹の寂しさを覚える。五年付き合ったんだもん、多少情だって移るわよね。でもそれだけで。

一人で過ごす大晦日。もしも長峰と年越しすることになってたら、どうなっていただろう。なんてちょっと想像したりもして。

センチメンタルな気分になりながら夜が更けていく。テレビから流れてくる歌声をなんとなく頭の片隅で聞きながら、そのままソファで寝てしまっていた。

次に気づいたときにはもう年も明けていて、着物を着たアナウンサーがあけましておめでとうございますとテンション高めにしゃべっていた。

「……さむっ」

暖房はつけていたけどそのままうたたねしてしまったから体が冷える。化粧もそのままだし、重い腰を上げてバスルームへ向かった。熱いお湯でシャワーを浴びて髪を乾かすために洗面台に向かう頃にはすっかり目も冴えてしまっていた。

「うわ、ここにもあったか」

二つ並んだ歯ブラシ。ひとつは貴文のもの。至る所に痕跡を残しやがって、ほんと腹立つ。貴文の歯ブラシを引っ掴んで、ゴミ箱へつっこむ。躊躇もなかった。

貴文との思い出はたくさんある。正直楽しかったし、嫌な思い出はない。むしろすべてが平穏過ぎたのかもしれない。最初から老夫婦みたいな、そんな落ち着き様が私たちにはあった。ケンカだってほとんど記憶にないし、むしろクリスマスに別れを告げられたあの日が初めてのケンカだったのかも。だけどそれも、私は貴文に食らいつくこともなく、貴文もそれ以上何も言わず、やっぱり別れるべくして別れたのかもしれない、とも思った。
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