恋愛対象外に絆される日
07
ひょいっと担がれた私は長峰によってベッドへ寝かされた。ああ、しんどかった。とにかく横になれることが嬉しい。頭はガンガンするけど、立っているよりずっとマシ。お布団最高。

「インフルエンザなんですよね?」

「……うん」

「なんで薬飲んでないんです?」

テーブルの上に乱雑に置かれた薬類を見ながら、長峰が呆れたため息をついた。

だって帰ってきてすぐ寝ちゃったんだもの。しんどくてとにかく横になりたかったんだもの。

「発症から何時間以内に飲まないと効果がうすいんじゃ……? 何時間か忘れたけど」

「仕方ないじゃない、飲む気力がなかったのよ」

「まったく……。ほら、今すぐ飲んで」

グラスになみなみと注がれた水とフィルムから出された薬を長峰が持ってくる。無理やり体を起こされて、薬を手渡された。

ゴクンと飲めば、ヒリヒリする喉をカプセルと錠剤が違和感丸出しで通っていく。それをしっかり見届けられて「はい、マスク。はい、寝る」とベッドへ戻された。

「……なんで来てくれたの?」

「結子さんがインフルエンザになったって矢田さんが大騒ぎして、様子見てきてって」

「そっか……」

なーんだ、陽茉莉ちゃんに言われたから来てくれたんだ。そりゃそうだよね。でも来てくれただけ嬉しいな。

「……俺も、心配だったから」

「そっかぁ……」

えへへ、長峰も心配してくれたんだ。その言葉が聞けただけで、インフルエンザが治りそう。なんて単純なんだ、私。

「とにかくよく寝てください。何かしてほしいことあります?」

してほしいこと……してほしいことかぁ……。長峰が来てくれただけでもうお腹いっぱいなんだよね。貴文も追い払ってくれたし、私にとってはスーパーマン。これ以上望むことなんてある?

そんなことを薄ぼんやりと思いながらも、本能だろうか、高熱で頭がショートしているのだろうか。

「そばにいてほしい」

勝手に口からこぼれ出ていた。
気づいたときにはもう遅くて、今の言葉をどう弁明しようかなんて頭も回らなくて、熱で暑いのか恥ずかしさで暑いのかよくわからなくなっていた。
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