恋愛対象外に絆される日
「舞花、文字に色つけるのってどうやるの?」

「おおおおおお兄ちゃん、どうしちゃったの? 目覚めちゃったの?」

「何にだよ。やり方知らないから覚えておこうと思っただけだよ」

「お母さん、マジで雪降るかも。お兄ちゃんが変!」

「舞花、お兄ちゃんが変なのは今に始まったことじゃないわ。この子はいつも変よ」

「それもそうか……」

「……ちょっと、俺を何だと思ってるんだ」

母と舞花はキョトンとする。二人顔を見合わせると、同じことを言った。

「「面白いお兄ちゃん」」

「…………」

俺のどこを見て面白いとか言えるのか、意味がわからない。黙った俺を見て、「ほらやっぱり面白い」「ねー」などと意気投合している。無視して祖母お手製のお節料理をモクモク食べた。

「お兄ちゃん、このレトワールのお菓子はお兄ちゃんが作ったの?」

お節料理と共にレトワールのチョコブラウニーも菓子受けとしてテーブルに出してある。舞花は包を開けて大口でかぶりついた。

「俺が作ったから最高に美味いだろ」

「美味しいけどドヤ顔やめて。そういえばこの前レトワール行ったよ。ショートケーキもすっごく美味しかった」

「俺が作ったので当然」

「なんなの、その自信。本当に美味しかったから言い返せない」

ぐぎぎと舞花は悔しそうにする。
まあ俺の腕が良いと言うよりはレトワールのレシピが良いのだろうけど。そのあたりの細かい話は伏せておく。

「そういえば店員さんめちゃくちゃ美人さんだった。あんな美人さんと一緒に働いてるなんてずるい」

美人といえば結子さんのことだろうか。俺の中で美人は結子さん一択だけど。結子さんは俺のドヤ顔にいつも綺麗な顔で笑ってくれる。ああ、会いたいなあ。昨日会ったばかりなのにもう会いたくなっているなんて本当に重症だよな。

「やっぱりお兄ちゃん変! またニヨニヨしてるもん!」

「そういえば今日雪がちらつくかもって天気予報で言ってたわね」

「やめてよお兄ちゃん。雪は勘弁して」

ほんと好き放題だな。しかしそんなふうに思われるほど顔が緩んでいたとは、自分でも驚きだ。結子さんの影響力が強すぎる。

気を紛らわすために窓の外を見る。北風が庭に干してある洗濯物を揺らしていった。寒そうだ。

【寒いので手袋使っていいですよ】

どうせ結子さんは今日も薄着だろうから、そうメッセージを送っておいた。

【ありがとう。借りパクしててラッキー♪】

何だそれ。ふ、と笑みが漏れた。

「お兄ちゃんの笑顔キモい」

「あら、お母さんは笑ってるお兄ちゃんイケメンだと思うわ」

二人の言葉は無視した。
正月も結子さんとメッセージのやり取りができて俺は幸せだ。
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