恋愛対象外に絆される日
畑中結子 08
どれくらい眠っていたのだろう。
目を覚ましたときには部屋は薄暗くて、ずいぶんとぐっすり眠ったものだとゆっくりと体を起こした。体はまだダルくて、それでも数時間前よりはマシかなとおでこに手を当ててみる。と、ぱさりと何かが落ちた。拾い上げてみれば濡らしたタオルだ。

「あ、起きました? 体調はどうです?」

「……長峰?」

部屋の電気が点けられる。眩しさに目を細めた。

「そろそろ薬飲んだほうがいいですよ。何か食べます? 食べれそうです?」

「うん……」

長峰は私の手から濡れタオルをひょいっと取り上げる。そうか、長峰がタオルで冷やしてくれたんだとゆっくりと状況を理解していく。

「ヨーグルトとゼリーありますけど、ちゃんと食べられそうならお粥作りますよ」

「お粥よりこってりしたラーメン食べたい」

「あははっ、元気そうで安心した」

長峰はテキパキと食事の支度をしてくれる。私はそれをぼんやりと眺めるだけ。カップ麺を見せられて、コクンと頷いた。

のそりとベッドから立ち上がってそちらへ行く。まだ頭はフラフラとしているけど、ぐっすり寝たからかお腹は空いていた。

「ふっ、寝癖」

長峰の手が伸びてくる。手櫛で髪を整えられる、その手の動きはまるで頭を撫でられているみたいで気持ちがいい。ずっと撫でていてほしいくらい。

って、私ってばほぼ素っぴんだし汗かいてるしスウェットだし、こんな姿を見られるなんて恥ずかしいにもほどがあるんですけど。

とっさに両手で顔を覆った。そういえば寝る前にしていたマスクはどこかにいってしまっている。丸裸状態だ。

「ううう……うええ……」

「えっ、なにっ、ちょっと」

「恥ずかしい!」

「は?」

「だって素っぴんだもん」

言いながら自分の気持ちがいつになく浮ついているのに気づいた。誰かを好きになって、その人に対して恥ずかしいだとか良いところを見せたいだとか、恋する乙女かよって自分自身にツッコむのに、その通りで否定できない自分がいるのだ。

目の前の私の好きな人は予想外にも柔らかな笑みを浮かべていて、その綺麗な眼差しに心臓がトクンと高鳴った。
< 85 / 106 >

この作品をシェア

pagetop