恋愛対象外に絆される日
駅横の路地を入った飲み屋さん。運よくカウンター席が2つ空いていた。

「何飲みます?」

「ビールといきたいところだけど、寒いからあったかいの。焼酎お湯割り」

「おっさんか」

「ええ、ええ、何とでも言ってちょうだい」

「じゃあ俺もそれ。先輩にマフラー貸して寒い」

「長峰、お前……、自分でやっておきながら」

「冗談っすよ」

ははっと長峰が笑う。つられて私も笑った。
あ、よかった。私笑えてるわ。と、思ったんだけど。

なんだろうなぁ。暖房の効いた飲み屋さん、長峰のマフラーが妙にあったかいんだよなぁ。心に沁みるというかなんというか。

気づけばポロリと涙がこぼれていた。

長峰が、まだ私の首に巻かれてるマフラーを鼻の上まで上げた。マスクしてるみたいに。

「……ごめん」

マフラー濡らしちゃってさ。ほんと、ごめんだよ。
そのまま俯いてマフラーに顔を埋めた。
あ、どうしよ。とめどなく溢れてきちゃう。肩、震えてるかも。泣いてるのバレバレじゃん。

ズズッと鼻をすする。
やばい、マフラーに鼻水付く。

「適当に、頼みますね」

そう言って長峰は店員さんに注文してくれる。
なんとなく、私を隠してくれてる感じ。何だよコイツ、気が利くやつだな。ちくしょー。

「別にさ、未練があるわけじゃないんだ」

「うん」

「別れるんだろうなって思ってたし。だからショックでもないんだけど……。でも、よくわかんないけど、泣ける」

「悔しいんじゃないです?」

「え?」

「私みたいないい女フリやがって……みたいな」

はっ! それだ! きっと!
私は顔を上げる。

「それだわ、それ! 悔しい!」

「ふっ、鼻水」

「ギャー!」

鼻水垂らしてるの、後輩に見られた。恥ずかしっ!
長峰は可笑しそうにくっくっと肩を揺らす。

「ハンカチ持ってないもん」

「女子力が原因だったか」

「うっさいな。ハンカチ貸してよ」

「俺も持ってないですね」

「なんでだよ! そこは持ってなさいよ」

よくわかんなくなって、二人で笑った。
鼻水はしっかりマフラーに付いた。
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