恋愛対象外に絆される日
なんか不思議だ。何でもやってあげたくなることってあるんだな。人を好きになるってすごいと思う。「好き」だという原動力は大きい。俺の過去の恋愛なんて大したことなかったなというくらいに、感情が揺れ動く。

いそいそと食事の準備をしていたら結子さんがじっとこちらを見る。

「……長峰ってさ、何で私のこと好き?」

何で好きかなんて考えたこともない。それに、ここが好きって言ったら限定的になる気がして嫌だ。そうじゃないんだ、うまく言葉で表せない。でもそれが好きってことなんじゃないだろうか。

「好きになるのに理屈はいらない。好きなものは好き」

……だと思う。

結子さんはいったん目を伏し目がちにした。
睫毛が揺れる。とても綺麗だと思った。

「……私も、長峰が好き」

ふ、と視線が交わると結子さんは柔らかく目尻を下げた。瞬間、俺たちは恋人になったんだと実感した。やばい、テンション上がる。

「じゃあたくさん食べて早く体調万全にしてください。治ったら、ちゃんとしたラーメン食べに行きましょう」

「ラーメンデート!」

「そう、設定じゃなく、本物のデート」

「もう治った」

「んなわけない」

結子さんのキラキラした瞳が楽しそうに揺れる。結子さんが笑うだけで俺は幸せな気分になる。

「ねえ、長峰ってスーパーマンみたいだね」

そんなことを言うので「できる男」と威張ったらすぐさま「ドヤるな」とツッコまれた。そんなやり取りができる関係がとても心地良い。

「ねえ、私たち恋人?」

突然そんな不安になることを言う。やめてくれ、問題なんてあってたまるかよ。

「そのつもりですけど、問題あります?」

「ないけど実感ない。いつも通りすぎて」

「それは……これからなんじゃないです?」

これから結子さんといろんなことを経験できたら嬉しい。もっともっと好きになる予感しかしない。そのためにまずは――。

「インフルエンザ治らないと何もできないですよ」

そう言ったらあからさまにしょんぼりした。なんてわかりやすくて可愛いのだろう。

「マスクの上からでいいなら」

「え?」

キョトンとした結子さんのマスク越しにキスをひとつ。一呼吸おいて、結子さんは真っ赤な顔をしてガタタっと椅子を鳴らす。

「う、うつったらどうするのよっ」

まあ、ね。そのリスクを考えてないわけじゃない。でも欲求がバロメーター超えて結子さんを欲したから。社会人としては失格だと思うが。

「あー、じゃあ、結子さんに看病してもらいます。よろしく」

それも悪くないだろう。いやしかし、あとでちゃんと手洗いうがいするし。換気もするし。レトワールに迷惑はかけないようにしないとな。己を戒めねばと反省したのだけど。

「……じゃあ、もう一回、して」

あまりにも可愛くねだられて思わず頭を抱えてキスをしてしまった。危うく理性が飛ぶかと思った。

結子さんの破壊力、えぐい。
そこで留まった俺、偉い。
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