恋愛対象外に絆される日
「ねえ、今日うちで夕飯食べない?」

「行きます」

二つ返事で承諾してくれる。偶然にも今日は終業時間が同じ。明日は待ちに待ったラーメンデートの日。だから今日は前夜祭だ。

「泊まりたいんですけど」

「ん? いいよ」

大晦日は泊まるか泊まらないかでどぎまぎしてしまったけれど、今はもう恋人だもの。なんの躊躇もない。むしろウェルカムだよ。

長峰は着替えを取りに一旦家に帰り、私はその間に夕食を作った。最近作って美味しかった豚キムチに豆ご飯、お味噌汁。豚キムチは大皿にした。一緒につついて食べたいからだ。

美味しいって言ってくれるといいな。長峰のことを考えながら料理をすると何だか楽しい。そういう気持ち、ずいぶんと忘れていた気がする。

ガチャリと鍵の開く音がして長峰が入ってきた。貴文から返してもらった合鍵はそのまま長峰に渡したのだ。

「なんかすごく美味そうなにおいがする」

「結ちゃん特製豚キムチよ」

「うわ、めちゃくちゃ楽しみ。あ、そうだ、これ」

チャリ……と差し出されたのは鍵?
両手で受け取る。

「俺んちの合鍵。結子さん持ってて」

「うわ、いいの?」

「良いも何も、俺も結子さんちの合鍵持ってるし。交換です。明日は俺んち来ます?」

「行く行く!」

食い気味に答えたら、ふっと微笑まれた。
楽しみがまたひとつ、増える。

「ご飯食べよ」

「もう腹ペコっすね。今日も働きすぎた」

一緒に手を合わせていただきますをする。長峰が豚キムチをぱくりと口に入れごくんと飲み込むまで、思わず見守ってしまった。

「めちゃくちゃ美味い。最高」

「でしょう」

「ははっ、結子さんのドヤ顔」

長峰のがうつっちゃったみたい。だけどこうやって笑い合えるのって素敵。仕事の疲れも吹き飛んじゃう。

「デザートありますよ」

「わ、嬉しい」

長峰が出してくれたのはレトワールの小さなケーキ箱。開けたら中にはシュークリームが二つ入っていた。甘い香りが広がる。

「念願の!」

「今日のは俺が焼いたので美味い確定」

「ドヤるな〜」

またクスクスと笑う。それがとても楽しくて幸せ。長峰は私に小さな幸せをいっぱいくれる。まるで花を一本一本くれるかのように、それはやがて大きな花束になる。

「私もあげたいなー、幸せの花束」

「何の話?」

「なんでもないよー」

ぎゅっと抱きついたら、包み込むように抱きしめてくれた。長峰は甘い匂いがする。この空気を吸うだけで幸せ。
< 92 / 106 >

この作品をシェア

pagetop