恋愛対象外に絆される日
ぱぱっと身支度をして出掛ける準備をする。

「ねえ、歯ブラシここに置いていったら?」

「そうしたら入り浸るかもしれないけど」

「ふふっ、素敵」

「朝っぱらから可愛いっすね」

ニッと微笑まれて心臓がトックンと音を立てる。
遥人って突然かっこよさに磨きがかかるから、そんなときは眩しくて直視できない。

うーん、身近にこんなイケメンがいたなんて盲点だったわ。ずっと一緒に働いていたのに、意識するとしないとでは人に対する見方ってこんなにも違うものなのね。

遥人はいつものようにマフラーを巻いて手袋をした。今日もモコモコ。耳当てもしたら完璧なんじゃないかしら、なんて眺めていたら手袋を渡された。

「寒いでしょ」

「寒いけど……」

私は片方の手袋だけを受け取って左手にはめた。
ほんのりとした温もりにほっとする。

「片方だけ?」

「もう片方はこっちがいい」

空いている右手で遥人の左手をぎゅっと握った。ちょっと戸惑ってる姿が可愛らしい。照れ屋さんめ。

「可愛いがすぎる」

遥人はボソッと呟いて繋いだ手をコートのポケットへ突っ込んだ。きゅっと密着して嬉しい。

「結子さんって……あ、いや、なんでもないです」

「何よ。気になるじゃない」

「俺の悪い癖が出た」

「怒らないから言いなさいよ」

「絶対怒る」

「今さらじゃない。怒られ慣れてるでしょ」

遥人はバツが悪そうな顔をした。でも本当のことだもの。レトワールでは私が先輩だから、今までいろんなことに対して指導してきてる。しかも今は手を繋いでいる。逃さないわよとばかりにポケットに入ってる手をぐっとこちらに引き寄せたら、とんでもなく渋い顔をした。
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