妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
久遠は、斜め45度方向に座っている天音を見て
「親父がさぁ、ああ、ラフカディオ・ハーンが好きで。
日本に初めて来た時、雪女を見たって」

久遠は、クスクス笑った。
彼の酒は気分を緩め、陽気になるのだろう。

「んで、雪が降る中、たぶん、こんな所だったのだろうが。
仕事終わりの夕暮れで、ホテルの場所がわからなくて。
深い雪の積もる道でズボズボ、足を取られるし、困っていたら、
道の先に女の人が着物姿で、積もった雪道をすいすいと歩いていたんだって。
まるで空中に浮いているみたいだった。
道を聞こうとして、その女の人ね・・・
その人、振り返ったら雪女みたいに白くって、唇だけが真っ赤で・・・
美人だって。
親父は恐怖で叫びながらも、美人かどうかは、チェックしているんだよね。」

天音は、返事のしように困り、相づちだけうった。
「はぁ・・・」

久遠は箸を止めて、天音に酒をすすめるようにグラスを押し出した。
「それで奥さんも、俺の母親だけど、留学していた日本人の女の子、
雪女に似ているって・・・結婚したらしい。笑えるよね」

幽霊は美人系が多い。不細工な雪女はいないだろう。
ラフカディオ・ハーン、小泉八雲か・・・
この人は、話好きなのだな・・・

天音は、するする入る日本酒に、つい興が乗ってしまった。

「うちにも、おもしろい伝承がありますが・・・」
天音は正座したまま、日本酒をぐいっと飲んだ。
「座敷わらし・・・」

久遠ののどが、ぐっと鳴った。
「それって・・・ヨーカイ?ユウレイ?」
天音はふふと、含み笑いをして幼い頃を思い出した。

夏場の肝試し・・コワイお話で、盛り上がって・・・ギャーギャー叫んで、楽しかったな。
祖母は、怪談話しが上手い人だった。
この客にも、楽しんでもらおうか・・・
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