妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
「あーーー、そういう意味ね。」
久遠はクスクス笑い、思い出したように

「君は・・酒の臭いがした」
「はぁーーー?それって、酒臭いって事じゃないですかぁ!!」

天音は真っ赤になって、大声で叫んだ。
わぁーーーと叫んで、走り回りたい・・・と思ったが

<査定額>、<査定額>マジックワードが浮かんだ。

この人はお客様なのだ。お友達ではない。

天音はぐっと熱いマサラティーを、飲み込んだ。

女将はどんなトラブルにも冷静に、対応しなくてはならない。
立て直しをしなくては・・・

「あの、食事が終わったら、この付近の見どころをご案内します」
天音はマサラティーを一口すすり、やや上目遣いに久遠を見た。

「そうだね。写真も撮りたいし、SNSにあげるよ」
久遠はまた唇を尖らせて、カップをフーフーしている。

このインターナショナルな男は、よくわからない生物だ。
しかし、スパイスの効いた本場のマサラティーは、加齢臭問題を吹き飛ばしてくれたようだ。

「それが終わりましたら、お帰りのために車を呼びますから」

「俺、帰らないよ」
久遠は、普通に答えた。
「はいぃ?」
曖昧に答えながらも、天音の心臓が飛び跳ねた。
今晩もまさか、添い寝サービスとか?

「モニターがてら、友達が何人か来るんだ」
久遠はスマホをスクロールして、画像を確認している。

「ヨーカイ旅館(ホテル)を、見たいって」
久遠は笑顔で、フリーズしている天音を見た。

そんなの・・聞いてねぇよ!

天音は気持ちを何とか立て直して、久遠を庭に案内した。

「このお庭は、紅葉(こうよう)が素晴らしいです。
秋には<紅葉狩り>といって、大勢の人を招いてパーティも開いたようですね。
写真も残っています。」

天音の説明に、久遠は同意のうなずきをして言った。
「緑のもみじも、すごくきれいだね」

天音はしゃがんで幾枚かのもみじの落ち葉を拾って、比較するように手の平にのせた。

「ええ、祖父はもみじにこだわりがあって、珍しい種類を庭師に捜させて、植えてきたようです。
よく見ると、葉の大きさや形、色がずいぶんと違いますよ」

日陰の地面は、緑のグラデーション。
美しい苔に覆われて、水滴が木漏れ日に輝いている。

「へぇーー、苔ともみじか。いいね。こだわりを感じる庭だ」

カシャッ、カシャッ
久遠はスマホでいろいろなアングルで、写真を撮りまくっている。
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