妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
数ポーズ取らされて、
「とても美しいよ。見てごらん」
久遠は、画像を見せてくれた。

ほぇーーー緑のもみじ、黒の着物、裾柄の赤もみじ、手と足の白さがなまめかしい。
自分ではないみたいに、美しく妖艶だ。

「帯を畳に流して・・・そういうのもいいですよね」
天音は照れ隠しをするように、急いで数本の帯を畳の上に広げて見せた。
畳の上に、錦の川が何本も流れる。

天音は窓のそばのもみじの枝を折り、帯地の川の上に置いた。

「それもいいね。とてもクールだ」
久遠は熱心に、写真を撮っている。
天音は、ぼんやりとその姿を見ていた。

この人なら、この旅館の立て直しができるのだろう。
この人と一緒にできれば・・ふとよぎったが、すぐに現実に戻った。

「東欧の・・・小さな村に行った時だけど」

唐突に久遠が顔をあげて、天音を見た。
「水の精ルサルカという儀式が、あってさ。
死んだ人が水の精になって、さまよってしまうから、村の女たちが白樺の葉で、頭を飾って歌を歌い墓地に案内するらしい。
そこで男と一緒に松明(たいまつ)の下で、一晩踊り明かすというものだけど」

鎮魂、慰霊の儀式なのか。

民族学を脳内検索している天音に向かって、久遠はニッと笑った。

「男と女の合コンの場でもあるんだよね」
それから大きな古木のもみじを見やった。

「きっとそれぞれの土地には、スピリットがあって、その土地に根ざす女の人が守り続けるのだろう」
その言葉に、天音も古木のもみじを見た。
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