妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音

訪問者の追加

パパァーーーーンン

道の方で、クラクションの大きな音。
「クオーーーン、いるかぁーーー」

「ああ、さっそく来たな」
久遠はすぐに、部屋から出て行った。
天音は急いで、着物や帯を片づけ始めた。

旅館のロビーに天音が行くと、外国人の男4人、女3人がワイワイ大声でしゃべっている。

男たちはTシャツ、ジーンズ、女たちはキャミに短パンで、美尻、美脚、豊胸を強調している。
「おーーい、天音ちゃん。皆に紹介するよ」

天音は受付カウンターに隠れるように身をひそめていたが、久遠がすぐに見つけた。

天音の手首をぐいっと、引っ張って連れ出した。
「ヘイ、彼女がこのヨーカイホテルのオーナーだ」

全員の視線が、天音に集中した。
ヒューとか、ピーと指笛が鳴る。
それは、「すげぇなー」という、リアクションであるのはわかった。
天音は<ううう>と注目されるのに戸惑いながらも、丁寧に頭を下げた。

「オウ、ゴーストホテル!」
いや、もうゴーストはいないのだけれど・・

女3人のうちの1人が動いた。
ブロンドでモデルのように華やかな女で、すぐに久遠の腕に自分の腕を絡めた。
そして周囲に見せつけるように、笑顔を見せた。

「キャンプの準備をはじめよう!BBQの野菜とか、肉とか・・持ってきたかぁ」

久遠は英語で大声で言うと、天音はすぐに女将モードで反応した。
「包丁、まな板、ざるやボールを準備します」
そう言うと、逃げるように速足で厨房に向かった。

自分は、華やかな女性と比較される存在ですらない。

女将として、やるべきことをやるだけだ。天音は、手早くエプロンをつけた。
天音が厨房で、道具をステンレスの配食台に出していると

「失礼します。三角(みすみ)さんですね」
なめらかな日本語。日本人だ。

入り口に一人、先ほど来た外国人集団にいた男性が立っていた。

「はい、何か?」

Tシャツとジーンズ、綿ジャケットの袖をまくり上げてと、ラフな格好をしているが、所作はビジネスマンのようだ。

「私は・・」
と言って、高級ブランドの長財布から、手慣れたように名刺を取り出した。
「はい・・」
天音は名刺を受け取った。

名刺には
リッジモンドホテルグループ・日本地区・エリアマネージャー
近藤 翔太

「あの、何か・・・」
「久遠から、この旅館の売却について伺っております。

実務的な問題や手続きは、私の方が担当になりますのでよろしくお願いいたします。
先にご挨拶だけでもと思い、伺いました」

近藤は、30代半ばなのだろう。
仕事がバリバリにできる、一流企業の社員に見える。

「あの、タカハラ様とは・・どのようなご関係なのですか?」

天音は、地元の不動産会社のおっちゃんの顔を思い浮かべた。

「タカハラ?ああ、久遠の母方の姓ですね。
久遠は友達ですが、私の上司です。
彼はリッジモンドの一族で、本社の幹部ですから」
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