妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
久遠は口を尖らせながら、言い訳っぽく
「あのさ、エミリアは別にセフレだから・・」

それから目を伏せ気味に、思い出すようにふっと笑って
「俺、その時思ったの。
天音ちゃんがジェラシー、感じてくれるといいなぁって」

この人は、何を告白しているのか。
天音は予想外の展開に、額にしわを寄せて、久遠の顔を見つめていた。

「天音ちゃんは森の精霊みたいで、人になつかなくて、そんで妖怪ホテルのオーナーで、
めちゃくちゃユニークだよね」

この人は、何が言いたい?

天音はより深く額にしわを寄せて、探るように顔をしかめた。

「あと、抱きしめた時のサイズ感がいいんだ。
俺にとって、なんかほっとする感じで」

サイズ感って・・なに・・それ・・?

「はぁ・・?」
抱きしめたって・・いつだ?
あの、布団で一緒に寝た時かぁ?

久遠は屈託ない、子どものような笑顔を天音に向けた。
「だから、あのホテル、俺に売って?」

「売りません!」
天音はきっぱりと言った。

「うーーん、欲しいんだけど」
久遠が顎に手をやって、うなった。
その様子を見て、天音はひらめいた。

「うち、これから改装オープンするつもりなんで、従業員を募集しているんです。
タカハラさん、どうですか?うちにきませんか?」
天音はくいっと顎をあげて、久遠を見た。

恋愛運は悪いけど、久遠をビジネスパートナーにするのなら、最強かもしれない。
ヘッドハンティングだ。

「へっ?」
久遠は意外な提案に、天音を見つめた。
「住み込みになるので、セフレさんとは、なかなか会えないとは思いますが」

ついでに、天音はビシッと釘を打った。
「お給料は・・・低いです。
でも、露天風呂は入り放題、ご飯も食べ放題。晩酌つけます」

天音は、そう一気に言って、はぁと息を吐いた。
冗談でもNOだろうが。

この人は大きなホテルチェーンの御曹司なのだから。

久遠は膝にあった本を閉じて、天音を見た。

「俺が帰ったら「お帰りなさい」って、言ってくれるのかな」

「もちろんです」
そう答えながらも、天音は予想していた。
冗談でも、YESなんて言わないだろうが。

久遠は額に手をやって、クククと笑っている。

「ホーム、スィート・ホーム・・・♪」
それからスマホを取り出して、スクロールした。

「これ、見て?」
画面には天音の寝顔が、バッチリ映っている。
「マイ・スィート・ハニーって、アップしよっと」

ニャニャニャ・・・なんと・・・
天音は狼狽して、スマホを掴もうとした瞬間、久遠に抱きしめられた。

「契約成立ね。君は俺のボスでいい」
それから、ちょっと考えて

住み込みなら、俺、怖いのダメだから、夜は一緒の部屋だよ」

一緒の部屋って・・・天音は、口をへの字に曲げて
「そそ・・それは・・・要相談ですね」

もし、それでこどもができたら・・・それこそリアル座敷童ではないか。
< 26 / 37 >

この作品をシェア

pagetop