妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
コンコン

ドアのノックの音と同時に、看護師さんが引き戸を開けた。
「こんにちは」

その声で、天音は久遠の腕を無理やりすり抜け、何食わぬ顔でベッド脇の椅子に座った。

「お話し中、失礼しますね」

看護師さんが明るい笑顔で微笑んだが、天音はうなずくだけで精一杯だ。

「点滴、確認しますから」
看護師が点滴の落ち具合を確認している隙に、

「あのっ、私はこれで帰ります。サヨナラっ!!」
ヘンに、勘繰られるのもいやだし・・ここは病院だし・・
天音は、バックを持って立ち上がった。

「ええーーー、なんで、もう帰っちゃうのぉ!
話、まだ終わってないよ!!」
久遠が叫んだが、天音はそれを無視して、脱兎のごとく部屋を走り抜けた。

滑り込んだエレベーターの中で、腕組みをして考える。
いいのか?いいのか?
本当にいいのか?

相手は、大きなホテルグループの御曹司で、金持ちで、しかも外国人だぞ。
セフレもいて、美形で、年下で・・・

福袋開けたら、びっくりたまげた商品がはいっていた・・という感じではないか。

天音には、シンデレラ願望はない。
そもそも、身分不相応の相手とつきあっても、破たんする話もよく聞く。
玉の輿は、その後の生活が大変そうだ。

価値観の違いとか、家庭環境とか・・・食べ物とか、経済感覚とか・・数え上げればきりがない。
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