妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音

女将は夢をみない

その昔、天音は20代後半に、お見合いをした事があった。

男性はいい人だったが、その男性の母親が難色を示した。
天音が旅館の一人娘だということが、その理由。

先行(さきいき)、自分の息子が婿養子として、取られるのではないかと心配したらしい。

そして破談になった。
男の方が「ご縁がなかった事にしたい」と、断ってきたのだ。

オトナの恋愛は・・好きだけでは突っ走れない。

結婚が前提になると、いろいろな当事者以外の要因が、複雑に絡み合ってくるのだ。

天音は病院を出て、すぐ前のバス停に向かった。

天音はもう一度、腕組みをして考えていた。
自分と久遠との接点、ビジネス、恋愛対象、いや結婚対象として、成立するのか?。

久遠は、わんこのようになついてくれるし、愛情表現もストレートだ。
しかし、彼の家族に、その環境に、自分は受け入れられるのだろうか。

彼はまだ若い。
セフレもいる。
恋愛経験も豊富だろう。

まだ遊びたい年齢だろうし・・・金もあるはず。
外資系幹部エリートという肩書と、家柄の良さ。
若い女の子たちが、こんな優良物件を放置するはずがない。

天音は大きく息を吐いた。

向こうから犬の散歩なのか、大型犬を連れて、中学生くらいの女の子が歩いてくる。

大型わんこ・・・茶色でモフモフで、かわいい。
尻尾をブンブン振って、前足で地面をしきりにひっかいている。

何か気になる物を、見つけたのか。
女の子が必死にリードを引っ張るが、犬は探索をやめようとしない。

しばらくすると犬は飽きたのか、プイと顔を上げると、困っている飼い主を見上げた。
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