妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
大きく尻尾を振って、女の子の顔をベロベロになめてじゃれついた。
「だめだよぉ・・!」

女の子は制止するが、わんこの勢いに負けている。
でも、うれしそうで、かわいがっている様子がよくわかった。

天音はなんともなしに、その光景を見て笑みがこぼれた。

そこで、駅に向かうバスが来た。
バスに乗り込み、発進する振動。
天音の脳天に、あるフレーズが直撃した。

<頭を冷やせ>

恋愛ごっこをする年齢ではない。
ドキドキ、ときめく年齢ではないのだ。

久遠も・・たぶん、あの犬と同じで、何か珍しい物を見つけたという気分なのではないか?

母親と同じ日本人で、森の精霊とかいったが、確かに天音は他の女の子たちと比べると一風変わって見えたのだろう。

天音は、つり革をぎゅっと掴んだ。
バスが駅前の通りの曲がり、ロータリーに入り止まった。
一列に乗客が並んで、降りていく。

ああ、冷酒が飲みたいな。
急に空腹を感じた。

一人飯は、慣れている。
居酒屋に入るという提案も脳裏をかすめたが、財布と相談すると無理っぽい。

天音は駅前のスーパーに、吸い込まれるように入っていった。


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