妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
次の日の土曜日。

天音は、母の入居する高齢者施設にいた。
ふと、何かの拍子に、あの久遠の笑顔がよぎる。

そのたびに、天音はハエを追い払うかのように、首を振った。

久遠は、昨日、退院したはずだ。
来週の月曜日か、いずれ近いうちに決着をつけねばならない。

それともフェードアウト、自然消滅か。
それは、それで楽だが・・・
彼も今後の事を、冷静に考える時間があったはずだ。

オトナの現実、オトナ対応・・・お互い王子様とお姫様ではないのだ。

「また、来るね。女将さん」
母親に声をかけると、
「お気をつけて、お帰りください」
と、返事をしてくれたので、天音は苦笑した。

私は、常連客なのだな・・・そう思いながら玄関から出た。

その時だった。

「天音ちゃん、迎えにきたよ」
久遠が手を振って、施設の駐車場から歩いて来る。

今日は、ボロボロの浮浪者風ではなく、ブルーのワイシャツに紺ブレザー、白のボトムスという、爽やか路線のセレブリゾート服装だ。

そう、あの大型わんこのように、尻尾フリフリではないが・・・
満面の笑みをたたえて、ハグする態勢で、心持ち両手を広げた。

「さっき、退院して、そのままここに来たんだ。」

久遠のキラキラ笑顔とは対照的に、天音は戸惑いを隠せない。

胸が痛むような・・・違和感、うずく感じがする。
決着をつける時は、今しかないのだ。
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