妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音

ビジネスと恋愛感情の両立

天音は、深呼吸して言った。

「高原久遠さん、ちゃんとお話しをしなくてはいけませんよね」
あえて、距離感を強調するようにフルネームで呼びかける。

久遠は血統書付きのレトリバー、黒のモフモフの大型のわんこだ。

久遠は少し首をかしげて
「話って・・?あの契約は、成立したよね」

自分はこの大型わんこの飼い主になるのか、なれないのか。
わんこの意向を、再確認しなくてはいけない。

ビジネスとラブアフェアを、混同させるのはよくない。
この歳で、もう痛い思いはしたくない。
美しいエミリアの姿がよぎる。

天音は、素早く視線をそらすと、駐車場の植え込みの端にベンチがあるのに気が付いた。

そばには、目を引く四輪駆動の高級外車が止まっている。
久遠のものだろう。

天音は、その外車の前を通り過ぎて、ベンチに座った。
それから久遠に座るよう、手で促した。

久遠が隣に座ると、天音は口を開いた。

「現実問題として、旅館を経営するには、初期費用が相当かかります」

「うん。だから、近藤に家屋調査と、ガーデナーを入れるよう頼んだけど?」
だからって、・・天音は唇をかんだ。

「その費用は、誰が出すかという・・事が問題で」

すぐに、久遠が遮った。
「別に心配しないで、俺の方でちゃんとやるから」

天音は、ぐっと拳を握った。

「あなたがお金を出すのなら、私は、あなたに雇われる立場になりますよね」
そう、雇われ女将になる。

「そんな、固く考えなくてもいいんじゃない?
君の好きなようにして、俺は別にかまわないし」
久遠は、ニコッと笑った。

こいつに尻尾があれば、パタパタふってお座りしているだろう。

天音の考える難問は、もう一つあった。

「前に、一緒の部屋じゃなくてはダメだって、条件をだしましたよね。高原久遠さん」
再度、フルネームで呼びかける。
< 32 / 37 >

この作品をシェア

pagetop