妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
「その・・男女が一緒の部屋で暮らすとなると、子どもの問題がでるじゃないですか?
あなたは子どもができたら、認知してくれるのですかぁ!!」

真剣な顔をして吐き出すように、言葉を続ける天音の顔を、久遠はあっけにとられて見ていた。

「・・こども・・「にんち」って何?」

ああ、インターナショナル男は、言葉を知らなかったのか・・・

天音は、拍子抜けしたように久遠の顔を見つめた。

それから、天音は、噛んで含めるように、ゆっくりと言った。

「認知っていうのは・・日本の法律で正式な結婚ではなく、生まれたこどもの父親を、戸籍に記載してもらうことです。
それで父親として、子どもに養育の責任が生じるから」

「そうなのか、天音ちゃん、もう子どもの事まで、考えていたのか」
久遠は頬に手を当てて、感心したように言った。

あたりまえだよ。
一緒にいて、やることやれば、妊娠する可能性が高いじゃん。

妊娠するのは、私なんだよねっ!!
心の中で怒涛のごとく、叫んでいた。

天音はゆがんだ泣き顔を見られたくなく、急いで立ち上がった。

「そんなの、無理ですよね。だから、この話はなかった事にしてください」

天音は、確信していた。
私は、この大型わんこが好きなのだ。
迫られて尻尾をブンブンふって、じゃれつかれたら拒否はできない。

でも、オトナの現実に合わせなくてはならない。
話はこれで終わりだ。
決着はついた。

「ちょっと、待てよ。俺の話を聞いてほしい!」
久遠は低い声で言い、天音の腕をつかんで強制的に座らせた。

「本当は、あのもみじの木の下で言うつもりだったんだ。
プロポーズについては・・・」

天音の心臓が跳ねて、腕に力が入った。
が、久遠に手首をつかまれて、固まった状態だった。

「君と出会ったのは、運命だと思う。日本語で「何とかの糸」っていうよね。」

赤い糸・・・天音はつぶやいた。
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