妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
「なんで、言ってくれなかったのかな?
もっと、頼って欲しかった。がまん強い人だったから。
あの人は異邦人(エトランジェ)で、苦労をしていたはずなのに」
久遠の目から、涙がポトンと膝に落ちた。
それから涙が、あふれるように落ちていく。
「お母さんは・・・きっと、あなたに、心配をかけたくなかったのでしょう?」
天音はそう言って、そっとバックからティッシュを取り出し、久遠に渡した。
愛する息子に、弱っていく母親の姿を見せたくなかったのかもしれない。
美しい姿のままで、記憶に残したいと思ったのか。
久遠はティッシュを受け取り、目をぬぐうと、
「親父は、1年後に再婚して、母親の物をすべて処分したらしい。
俺と同じで、寂しがりの人だから、しかたがないと思うけど。
でも、俺の帰る場所が、なくなってしまったんだ。
俺も異邦人(エトランジェ)になってしまったようだ」
久遠は、ポケットから小さなハンディタイプの和英辞書、それもかなり使い込んだものを取り出した。
「これが、唯一の母親の形見なんだ。」
久遠がパラパラとページをめくると、一枚の赤いもみじの押し葉がはさまっていた。
「きっと、とてもきれいだったから、残したのだろうね」
久遠はその押し葉を手に取ると、くるくると回した。
久遠の母親も紅(くれない)に染まったもみじの木を見上げ、その美しさに見とれたのだろうか。
「日本の事を、もっと話して欲しかった。」
天音は、その押し葉を見続けた。
「それで、天音ちゃんの紅葉のホテルを見た時、ここが俺の帰る場所だって確信した」
久遠は壊さないように、そっともみじをページに挟んで辞書を閉じた。
もっと、頼って欲しかった。がまん強い人だったから。
あの人は異邦人(エトランジェ)で、苦労をしていたはずなのに」
久遠の目から、涙がポトンと膝に落ちた。
それから涙が、あふれるように落ちていく。
「お母さんは・・・きっと、あなたに、心配をかけたくなかったのでしょう?」
天音はそう言って、そっとバックからティッシュを取り出し、久遠に渡した。
愛する息子に、弱っていく母親の姿を見せたくなかったのかもしれない。
美しい姿のままで、記憶に残したいと思ったのか。
久遠はティッシュを受け取り、目をぬぐうと、
「親父は、1年後に再婚して、母親の物をすべて処分したらしい。
俺と同じで、寂しがりの人だから、しかたがないと思うけど。
でも、俺の帰る場所が、なくなってしまったんだ。
俺も異邦人(エトランジェ)になってしまったようだ」
久遠は、ポケットから小さなハンディタイプの和英辞書、それもかなり使い込んだものを取り出した。
「これが、唯一の母親の形見なんだ。」
久遠がパラパラとページをめくると、一枚の赤いもみじの押し葉がはさまっていた。
「きっと、とてもきれいだったから、残したのだろうね」
久遠はその押し葉を手に取ると、くるくると回した。
久遠の母親も紅(くれない)に染まったもみじの木を見上げ、その美しさに見とれたのだろうか。
「日本の事を、もっと話して欲しかった。」
天音は、その押し葉を見続けた。
「それで、天音ちゃんの紅葉のホテルを見た時、ここが俺の帰る場所だって確信した」
久遠は壊さないように、そっともみじをページに挟んで辞書を閉じた。