妖怪ホテルと加齢臭(改訂版)久遠と天音
どう見ても、ビジネス目的とは思えない格好だ。
こんな自由なタイプのビジネスマンは、そうはいないだろう。

「ああ、俺の自己紹介が、まだだったな。その・・・名刺がないんだけど」

「俺はクオン・タカハラ・・・
ああ、高原久遠だ。高いに原っぱ、久しいに遠いと書く。
仕事は、新しいホテル建設の場所を、見つける事。リサーチだ」

天音はすぐにスマホを取り出し、電話をする。

「あの、今、不動産屋さんに確認しますから」

「いいよ」
笑うと人懐こい、カワイイ笑顔になる。

久遠はパスポートをリュックにしまい、もう一本たばこに火をつけた。

プー・・プー・・
しばしの呼び出し音のあと、不動産屋のおっちゃんが出た。

「もしもし、紅葉(くれは)旅館の天音です。今、お客様がお見えなのですが・・・
ええ、そうです。それで、どうすればいいですか?」

天音は久遠から視線をはずさず、警戒する行為を止めなかった。

背が高く、肩幅があり、がっしりしている。
あの大きな手で、首を絞められたら・・・終わりだろう・・・

「わかりました。そうお話します」

天音はスマホを切ると、事務連絡的に一気に言った。

「不動産屋さんが、これから迎えに来てくれます。一緒に下の街まで下りてください。
今晩のホテルの手配もしてくれるそうです。
ですので、明日改めて・・・来ていただくよう」

久遠は驚いたように
「エエエエエーーー!
ここってホテルだよね。俺は泊まりたいんだけど」

天音は慌てて、首を横に振った。
「でも、今は、営業をしていないので・・・」

久遠は少し、考えていたが
「ああ、そうか、宿泊料金は支払うから。
それに夜の状況とか、朝方とかも見ておきたいんだよね。
室内の状況とか設備関係も、写真を撮らなくてはならないし」

久遠は見てくれと違って、仕事はしっかりやるタイプらしい。

査定額が、この男の判断で決まるなら、少しでも好感度を上げておきたい。
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