朱の悪魔×お嬢様
 ぶつかってしまった人は綺麗な女性だった。

 高校生か大学生くらいだろうか?大人っぽい雰囲気を纏った綺麗な黒髪と黒い瞳を持つ人だ。白いトレーナーと黒のジーパンという動きやすそうな格好をしている。

 数秒見惚れた後にハッと我に返ると、相手も美玖に見惚れていたらしく同じくらいに気が付いた。

 少し気まずい雰囲気になり、お互い苦笑する。

 とそこに、誰かが走ってくる足音がした。

「凜様!!やっと見つけましたよ!!」

 息を切らしながら走ってきたのは初老の男性だった。

 この女性の祖父かなんかか、元気なご老人だな~と思うかたわら、凜“様”?と疑問符を浮かべる。

 凜と呼ばれた女性は「あ~ぁ…せっかく撒いたのに」と残念がっていた。

 それに対して老人は当たり前だがやっぱり怒った様子で、この場で今すぐにでも長い説教が始まりそうな勢いである。

 と、その前に老人が美玖に気付く。

「こちらの方は?」

「あぁ、さっきその子にぶつかってしまったのよ」

「なんと!それは、大変申し訳ございませんでした」

 老人が美玖に向かってさっきの美玖以上に深々と頭を下げた。

「い、いえ、私からぶつかってしまったので…こちらの方こそすみません…」

 美玖は慌てて老人に言った。

 老人の顔を上げさせると

「あの、私、急いでいるので失礼します」

と早口で言ってその場を去ろうとする。

 けっして急いでなんかなかったが、恥ずかしさでかなり慌てていたのだ。

「あ、ちょっと待って!」

 女性が美玖を呼び止める。

 小首を傾げながら止まると、女性はニコリと微笑んで

「名前、教えてくれないかしら?これも何かの縁だし」

 「えっと…」と美玖が戸惑っていると

「私は羽須美凜」

「…柊美玖、です」

 少し小さな、それでもしっかりとした声で言う。

 すると女性は嬉しそうに笑った。

「美玖ちゃんね。あ、ごめんなさい、引き止めちゃって。それじゃ、バイバイ」

 小さく手を振られて、美玖も同じように振り返してから、今度こそ美玖は小走りで去った。
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