朱の悪魔×お嬢様
 走っていく美玖の後ろ姿を見ながら凜はクスリッと笑った。

「どうかなさいましたか?」

 老人が凜に聞くと凜は小さく首を横に振った。

「なんでもないわ。可愛い子だなと思って」

「確かに美少女でしたが…」

と言って少し口ごもる老人に「何?」と言って促すが「いえ、なんでもありません」と、かわされてしまった。

「そう?じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

 疑問符を浮かべながらも、凜は出口に向かって歩き出す。その後を老人がついていった。

 この時、老人が何を言おうとしたのか、今となっては誰も知るすべが無い。



 *-*-*-*-*-*-*-*-*



 本屋を出て少し行ったところまで美玖は走っていた。

 何でまだ走っているのだろうと気が付いてパッと足を止める。

 少しだけ乱れた息を整え、後ろを振り向いた。

「何で逃げちゃったのかな…」

 別に去っていったことはおかしくなんかないが、走っていったというのにはちょっと失礼だったかなと後悔する。

 それに、もう少し本屋でゆっくりしていきたかった。

 が、今からまた戻るのもどうかと思うし、もしまた『羽須美』さんに会ってしまったら羽須美さんはどうか分からないが絶対に気まずくなる、と美玖は確信していた。

 仕方なく美玖は駅に向かった。

 帰るのではなく、『本家』に行く為に。

 美玖としてはさっさと嫌な事は片付けてしまいたかった。

 でもやっぱり行くのは気が重い。


 重い足を引きずって迷っていたが、ついに覚悟を決めたようにしっかりと足を踏み出した。
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