朱の悪魔×お嬢様
 凜は部屋に戻るといつも通りの動きやすい服装に着替えた。

「ふぅ…やっぱりコッチの方が落ち着くわね」

 『お嬢様のくせに』と思うかもしれないが、落ち着かないのだからしょうがない。自分でも呆れる。

 凜はくるりと後ろに振り返り、部屋の隅にある大きな本棚から一冊の分厚い小説を取り出した。

 昼間も本屋に行っていたが、凜はかなりの本好きだった。

 分野は問わないがやっぱり恋愛やファンタジーものは面白い。

 本を片手にベッドに腰かけるとさっそく読み始める。

 忙しい父の時間があくまでいつもこうやって本を読みながら待っているのだ。

 だいたい9時から10時頃が丁度良い。

 時間が経つのが待ち遠しいが、本を読んでいるとそんな時間もあっという間だった。



 本を読み始めてしばらく経った頃―――最初は小さな音だったが、だんだんと大きく、騒がしくなる物音に気付く。

 首を傾げながら本を閉じ、廊下に顔を出してみる。

 凜の部屋は廊下の一番奥の部屋だった。

 廊下には誰もいない。それは別にいいのだ。

 ただ、父の部屋のある方向や、1階が何故かものすごく騒がしかった。


 …何?コレは。


 人がドタバタと走り回る足音。悲鳴。叫び声。銃声。金属の音。

 さすがにおかしいと思い、部屋に取り付けられている電話から何事か聞こうとした。

 が、いくら呼び出してもいっこうに誰も出ない。

 いつの間にか物音が静まり、むしろ何も音がしなくなった。あまりの静寂に耳が痛くなる程だ。

「…どうしたのかしら」

 不安な気持ちが襲いかかり、おそるおそる廊下に出てみる。
< 16 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop