朱の悪魔×お嬢様

†Side 紅い悪魔

 身体に染み付いた血の臭い

 耳にこびりついて離れない悲鳴

 目の奥で消えない死人の顔

 忘れられない肉を貫く感触

 脳内に二人の『私』がいた。

 本当の『私』と別人の様な全く知らない、自分でも分からない『私』。


 ―――恐い


 『私』が消えてしまいそうで。片方の『私』だけになってしまいそうで。

 …あれ?どっちの『私』が消えるの?どっちが本当の『私』?どっち?どっちも本当の『私』なの?こんなに違うのに?どっち?どっち?

 私は頭を抱えて膝をついた。

 また頭痛と吐き気が襲ってくる。

 頬を冷や汗が一筋流れた。

(いくら考えてもきりが無い、か…)

 時々『私』についてふと考える時がある。

 しかし、いつも決まって答えは見つからなかった。

 そもそも答えなどあるのだろうか。

 今日も人を殺した。

 いつもよりは少なかった気がする。…人数なんて関係ないけれど。

 少し髪が乱れたと思うが鏡など見る気もしない。

 血まみれの自分など、見たくなかった。

 手に、身体に、べっとりとついた血。

 我ながらよくあんなに殺せるなと思う。

 あんなに殺しても冷静な自分。いや、人を殺せる時点ですでに狂っているだろう自分。


 ドクン…ドクン…ドクン…


 唐突に早まりだした鼓動に自分でも分かるくらい焦り始める。

(やばい…“時間”だ…)

 胸を押さえ、急いで屋敷を出ようとしたその時、誰かが泣いている声がかすかに聞こえた。

(屋敷にいる者は全員殺したはず…誰だ?)

 焦る気持ちの中、かすかな泣き声をたよりに駆ける。

 その間も鼓動はドンドン早まっていった。
< 23 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop