朱の悪魔×お嬢様
「それで、その子の顔を見て驚いたの」

「え?」

 何で?と聞こうとしたがやめた。

 邪魔してはいけないという気がして美玖は口を閉ざす。

「泣いてる、って思ってたのに泣いてなかった…むしろ何の表情も無かったわ」

 凜はそこで一息つく。

 そしてまた話し出した。

「私、訊いてみたの。何で泣かないの?って」

と言って凜が自分の顔を見てくる。

 視線が何て答えたと思う?と問いかけてきていた。

 美玖は数秒考えるが結局分からず、促すだけになる。

「…それで?」

「それで…それで、その女の子、泣いても意味が無いから、って…」

「…」

 美玖は言葉を失った。

 “泣いても意味が無い”

 そうかもしれない。そうかもしれないけど、でもそしたら―――

「泣いたって何も起こらないし、周りの人を困らせるだけだから。それに…もっと悲しくなるもん。ってね」

 凜はそう言うと美玖に向けていた視線をまた足元に逸らした。

「強い子だなぁって思ってたの。その時の私は。…でも、今は可哀相な子だと思う」

「どうして?」

 美玖は何と答えるか本当は頭の片隅で分かっていた。

 でも、聞かずにはいられなかった。凜の言葉で答えを聞きたかったのだ。

「確かに、死んだ人が生き返るとかそんな事が起こるわけでもないし…悲しく、なる、だけだけど…」

 凜の言葉はだんだんと歯切れが悪くなる。

「でも!…自分の中に溜め込むほうが…溜め込んで、周りの人に自分の気持ちを伝えることが出来ないほうが…駄目、だと思うの」
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