朱の悪魔×お嬢様
 凜は自分でも気付かぬ内に肩を震わせていた。

 今なら少しだけ分かる。―――あの時の少女の気持ちが。

 少女は向き合う事が恐かったのだ。あれと。

 今の私がそうだから。

「…駄目だって分かってるのに、自分で駄目だって言ってるのに、私が一番分かってるのに―――何でだろう?涙が…出て、こない」

「…っ」

 気付くと美玖は凜の震える肩をそっと抱き寄せていた。

 自分よりも年上で、もちろん身長も自分より高い女性を抱きしめている体勢は傍から見れば美玖が抱きついているようにしか見えないだろう。

 実際、美玖自身も変な気持ちだった。

 が、今はこの一人の女性が

 とてもか弱く

 とても幼く

 とても小さく

 とても


 ―――愛おしく、感じたのだ。


 でもそんな事より、美玖は自分のしてしまった行動に驚いていた。


 会ったばかりの、しかも年上の女性に何をやってるんだ私!!


と頭の中はかなりのパニック状態に陥っている。

 凜も美玖に抱かれたままの状態で硬直していた。

「…」「…」

 2人に落ちる沈黙。

 あぁ、どうしよう。この気まず過ぎる雰囲気。

「…嫌、だったのかな?」

 突然美玖の腕の中で凜が呟く。

「え?」

「死んだんだ、って認めなくちゃいけないことが、嫌だったのかな?」

 凜は美玖の小さな身体に震える手でしがみついていた。

 突然の出来事に今度は美玖が戸惑う。
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