朱の悪魔×お嬢様
 山奥で辿り着いた本家は古い、和風の屋敷だった。

 広さ、というか大きさは凜の屋敷よりもはるかに大きく、そう考えると今まで歩いてきた山道も柊家の土地なのだろう。

 別段驚きもしないのはやはりお嬢様という身分のためだろうか。

 今はもう“お嬢様”という可愛らしい身分に分類されるかどうかは不安なところだが。

 ヤクザの組かなんかでよく見る木造の門。

 その隅にこじんまりと後から付け加えられたかのようなインターホン。

 美玖がそこに歩み寄っていくのを凜は静かに見つめた。

 心なしか震える手でインターホンがゆっくりと押される。


 ピンポーン…


 よくあるチャイムの音がし、数秒後に若い女の人の声が返ってきた。

『はい』

「…柊、美玖…です…」

 か細く、とても小さな声。

 その声を聞いた途端、ブチリと乱暴に切られる音がした。

 ビクッと美玖の身体が一瞬震える。

 凜はその光景を、何も言わずに、ただただ見つめていた。

 疑問はもちろんある。

 だが、まだ聞いてはいけない気がしたのだ。

 扉は開いているらしく、美玖が扉をそっと開き、凜が中に入れるように扉を開きながら身体をどける。

 美玖が開けてくれている扉を潜り抜け、そこに広がる景色を見た凜は思わず息をのんだ。

 そこに広がるのは和の手本とでも言うような完璧な庭。庭というにはかなり広かったが庭という表現で問題ないだろう。

 砂利が一面に敷かれ、数箇所に松や桜の木、池には鯉までいるその広すぎる庭はまるで平安時代の貴族の庭のようだ。

「…こちらです」

 凜がしばし見惚れていると美玖が遠慮がちに声をかけてきた。

 ハッと我に返り、美玖の後を歩き出す。
< 55 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop