朱の悪魔×お嬢様
 本家には幾つかの分館と本館がある。

 二人は庭を突っ切り、真っ直ぐに本館へと向かった。

 向かう途中、凜は決して好意的なものではないいくつもの視線を感じていた。

 これだけあからさまなら美玖も気付いているはずだろう。

 だが、美玖は顔を伏せている為その表情は分からない。

 気付いているからこそ伏せているのかもしれないが。

 ふと、その幾多の視線の一つの女性を見つける。

 女性は目が合うと慌てて顔を逸らした。

 が、その表情が嫌悪で歪んでいたのはハッキリと見えた。

「…」

 自然と二人は早足になっていく。

 今すぐにでも引き返したい、という気持ちを振り払うかのように。



*-*-*-*-*-*-*-*-*



本館到着

 本館に入ると、美玖は凜をある一室へと連れて行った。

 誰ともすれ違わない廊下。

 避けられていることがひしひしと雰囲気から伝わる。

 連れてこられたのは応接室、とでも言うのだろうか。応接室らしき和室だった。

 木造の低いテーブルに、数枚の座布団、ちょっとした装飾。

 その応接室に一人の老女が既にいた。

 綺麗な着物を完璧に着こなし、白髪混じりの髪を結い上げた優しそうな、そして、綺麗な老女だ。

 二人を待ち構えていたらしく、二人の姿を認めると嬉しそうに微笑みを向けてくる。

 ここに来てから初めての好意的な対応だったので凜は心底ホッと安堵した。

「初めまして。美玖から話は聞いています。羽須美凜さん、ですよね?」

 老女がゆっくりと、しかししっかりとした足取りで立ち上がって凜に近づく。

「美玖の祖母の赤峰凌と申します」

 会釈しながら名乗る老女、美玖の祖母、凌に慌てて凜も会釈を返した。

「羽須美凜です…初めまして」

 にこりと微笑んで凌が視線を凜から美玖へと移す。

「美玖、せっかくだけどちょっと席を外してもらえるかしら?」

「…はい」

 美玖は素直に頷き、部屋から出ていった。

 パタンと襖が閉じられるのを見てから

「さてと…長話になりますし、どうぞ座ってください」

 凌が微笑みを崩さずに手で座布団を示して座るように促した。


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