朱の悪魔×お嬢様
「ごめんなさい…余計なことを言ってしまいましたね…」

 凌が凛の心中に気付いたように言う。

「大丈夫、です。気にしないでください」

 凛は無理に笑顔を浮かべ、顔を上げた。

「では、最後にもう一つだけ…『悪魔と契約をした』と言ってましたが、その『契約』の内容は?」

「契約した悪魔を“裏切らない”こと」

 あっさりと、短く答えた凌に凛は逆に拍子抜けした。

「え…それだけ、ですか?」

「それだけです。簡単な内容ですけど、“簡単だからこそ、気をつけなければいけない”」

 凌の瞳に一瞬影がさしたが、凛は気付かなかった。

 少し首を傾げ、「簡単だからこそ、気をつけなければいけない…?」と繰り返し呟く。

 凌は凛の疑問には答えず、ただ優しく微笑むだけだった。

 凛がさらに首を傾げ、重ねて質問をしようとすると、それを遮るかのように凌が口を開く。

「では質問はこれで全部、でしょうか?」

「え、あ、はい、そうですね…あ!」

 頷きかけた凛が突然大声を上げ、凌は小さく飛び上がる。

「どうしましたか?」

「あっすみません…ちょっと大事なことを思い出しまして…」

「大事なこと?」

 凌が小首を傾げると、凛は慌てて居住まいを正した。

 言おうか言うまいか逡巡した後、言おう、と決意したように凌を正面から見る。

「あの、お願いがあるのですが…」

「なんでしょう?」

「美玖を、私の家に引き取らせていただけませんか?」

「え?」

 全く予想だにしなかった申し出に、凌は驚きを隠せなかった。

「今日伺わせていただいたのは、それをお願いしようとも思いまして…。もう少しで忘れて帰るところでした」

 凛はそう言うと苦笑いを浮かべ、凌の反応を待つ。
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